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2015年06月25日

【小説】くだらない話 05

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side 新井シンジ「はじまり」
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返事をしてから何事もなかったかのように一日を過ごした。
授業中に神谷を見たが、いつもと変わらずまじめにノートを書いていた。

手紙は見ているはずだ。
告白のことを気にしているのは僕だけなのか、彼女にとっては些細な出来事なのか、
そう考えているうちに瞼が重くなってくる。

女心なんて分かるわけがない、となかば強引に理由をつけ、
僕は誘われるままに机につっぷした。

その日の放課後だった。
僕が校舎の2階にある教室を出て、階段の踊り場まで歩いたときだ。
背後から走ってくる足音が聞こえたので振り返ると神谷がいた。

彼女は右手を制服のポケットに入れたまま
「あの……」と何かを言いかけて動きを止める。


そのまま俯いてしまった。


何か声をかけた方がいい、と頭では分かっていても口が動かない。
見えない電流がぴりりぴりりと小さな音をたてて僕らの間を駆け巡っているようだった。

僕は、にじんだ手汗を制服のズボンにこすりつけて気を紛らわせようとした。
告白は断った。他に何かあるのか。

神谷は右手をポケットから出し、僕にゆっくり近づけてくる。
その手には返事をしたはずの手紙が握られていた。

僕が動揺していると――


「……文通してほしいの。友達になって」


か細い声でそう言って手紙を握らせる。
彼女の手は温かく、少し汗ばんでいた。

僕と同じように緊張していたのだろう。

「じゃあ、また明日ね」

神谷は背中を向けて教室へ戻っていった。
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posted by c-book at 15:33| 【小説】くだらない話