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2015年06月25日

【小説】くだらない話 12

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side 新井シンジ「文通」
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校舎の裏手にまわって倉庫の扉を開ける。
中には小さなスコップや肥料、ビニール袋に入れられた球根や花の種が乱雑に置かれていた。

僕はほこりっぽい室内から汚れた軍手とシャワー付きホースをつかんで外へ出た。

軍手をはめながら花壇の近くにある水道へ向い、
流出口にホースを差し込んでビスでしっかり固定する。そのあとで蛇口をひねった。

僕はしゅわしゅわと小気味の良い音をたてるホースを花壇にむけた。
今はアヤメ科のダッチアイリスが咲いている。
花びらは青に近い紫色、その中心は鮮やかな黄色だ。

細長い葉から茎へ、茎から渇いた土へと水がしたたり、花が潤いを取り戻していく。
上空にできたうすい虹の布が花壇をやさしく包んでいた。

花を育てることが好きだった。

フラワーショップを経営していた祖父の影響だろう。
健在だったころに、土いじりをしながら花の名前や花言葉をよく聞かせてくれた。

植物は育てる人を裏切らない。
労力を惜しまなければ綺麗な花を咲かせてくれる。
立派な木になってくれる、と祖父は言っていた。

こうして草花に水をあげていると、その気持ちが少しだけ分かるような気がした。

花と同じようにひとりでいることも好きな僕にとって園芸部の活動は楽しかった。
周りに合わせて気を使うわけでもなく、ただ花を咲かせる作業に没頭できたから。
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posted by c-book at 16:34| 【小説】くだらない話