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2015年07月02日

【小説】くだらない話 14

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side 新井シンジ「文通」
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その日の夜、帰宅した僕はベッドに倒れ込みながら手紙を見ていた。

うすい黄色の封筒、表に描かれた桃色の兎が時計を持って走る姿は
どことなく不思議の国のアリスを連想させる。
封筒の真ん中に貼られた懐中時計のシールをはがし、手紙を取り出す。


お元気ですか。って元気だよね。

いつも教室で顔合わせてるんだから。

えーと、私は神谷ナオです。

趣味はバスケと音楽鑑賞で好きなアーティストは……。



楽しそうに、しかしどこかよそよそしく身の上話をする神谷のがそこにいた。
好きな食べ物という項目にコーンスープと書かれていたのを見て、僕は少しだけ笑った。

封筒の中には二枚目の手紙があり、そこにはいくつかの質問が書かれていた。


今度は、こっちから質問していいですか?

好きな食べ物は。

どんな服が好みですか。

趣味は。

無意識にしちゃうクセってありますか……。



相手のことを知りたいという、ひたむきで無邪気な手紙だ。
それでも――

まだ、僕は文通を断ろうとしていた。
質問に答えたくはない、手紙を書くなんて面倒なだけだ。無視してやり過ごそうかとも思う。

しかし、フラれてもめげずに、文通友達になってほしいという彼女の健気な気持ちが問題だ。
僕がこれを簡単に断ってしまうと周りの印象が悪くなるだろう。

それは、彼女が大っぴらに言いふらさなくても広がっていき、話がひとり歩きしはじめる。
最終的には付き合ってもいないのに遊んで捨てられたとか、そういう虚言になっているのだ。

神谷と仲の良い噂魔の島田ならやりかねない。
それは僕の平穏を確実に奪うだろう。



返事を書くしかないと思った。
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posted by c-book at 16:12| 【小説】くだらない話