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2015年07月02日

【小説】くだらない話 20

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side 神谷ナオ「決意」
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家に帰り、自室で返事を書いた。

「私ね、バスケ部の先輩と付き合うことになったんだ」
そう書き込んで、いつもと同じような雑記をつづけていく。

先輩の気持ちを利用することに罪悪感がないわけではない。
しかし、すんなりと文通を終わらせるにはそれしか方法がなかった。

嘘でもなんでもいい。彼氏ができればどちらかが終わりを切り出せる。
もうやめよう。こんなこと。

彼も村沢先輩を勧めていた。

それが本心からくる言葉なのか、
彼氏をつくらせて文通をやめさせるための言葉なのかは分からない。
考えないようにしていた。

紙にピクルスのくだりを書いていた。
しつこいかもしれないが、彼にすっぱいきゅうりの美味さを伝えた。

ふと、字がゆがんでいることに気付いた。

消しゴムを持つ。
消す。
ふたたび書く。

あれっ、なんでゆがむんだ。
消しゴムを持つ。
消す、書く、ゆがむを繰り返す。


手が震えていた。


視界が少しぼやけていた。


書き続けようとしたら、紙に水滴が落ちた。

いつからだろう。
私の瞳の堤防が壊れやすくなったのは。

いつから私はこんなに――
涙もろくなってしまったのだろう。

机にうずくまって嗚咽する自分が、ひどく弱くて情けない人間に思えた。
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posted by c-book at 16:39| 【小説】くだらない話