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2015年07月02日

【小説】くだらない話 23

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side 新井シンジ「晴れのち曇り」
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神谷も僕に気づき、走って近づいてくる。
僕は鞄から手紙を取り出そうとファスナーに手をかけた。

「はい、コレ……」

えっ、とふぬけた表情でそれを見た。
僕はまだ手紙を出していない。
にも関わらず、彼女の手にはいつもと同じ、時計ウサギがプリントされた封筒が握られていた。

「読んでもらいたいの」

手紙を受け取りながら聞いてみた。
今日は手渡しなのか。
うん、と頷いて神谷は何か言いたげな仕草をする。

なにかあったのか、彼女の顔を見ながら言った。はじめて目が合った気がする。
「なんでもないよ、気にしないで」はにかみながらそう言った。


無言。短いようで、長いような。
どくんどくん。静かだけどよく通る心音だけが聴こえる世界。


やがて、彼女は小さな唇を動かす。
「……それじゃ、バイバイ」

神谷はそう言い残して足早に去っていく。
彼女の雰囲気から何かを感じつつも、僕はその背中を見送った。

午前も昼休みを挟んだ午後も授業にまったく身が入らなかった。
授業中に神谷を見ると、窓から吹く風で彼女の黒髪がなびいていた。

彼女の顔は朝と変わっていない。



目頭が赤いままだ。
理由を尋ねる資格を、僕は持ちあわせていない。
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posted by c-book at 17:00| 【小説】くだらない話