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2015年07月02日

【小説】くだらない話 29

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side 新井シンジ「嘘つきと泣き虫」
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校門をくぐり、誰もいないグラウンドの脇を抜けて花壇へつづく道に入る。
僕のいる西側から東側へと伸びる道には、夕日によって茜色のラインがひかれていた。

正面に立つと、巨大な影ぼうしがうかびあがる。
それは踏もうとするたびに逃げていった。

屋根のある通路をつっきって花壇の前に立つ。

咲き乱れる花は橙と群青のフィルターがかけられており、本来の色を失っているようだ。
見つめていると、心がからっぽになるような気がした。

僕はそこから右へ進み、校舎の裏手にある倉庫へ向かおうとした。


突然、強い風が吹いた。


花壇の花や近くの雑木林が揺れる。

ほのかな花の香り、
がさりがさりと木々のこすれる音、
湿った生暖かい空気、

それらがこの場所に浸透していくなかで、とても小さくか細い声を聞いた。


「いや……」


僕はふりかえり、正面にある体育館の裏手のほうを見た。

暗がりの中に制服姿の男女がいる。
男子のほうは女子を抱きしめ、徐々に顔を近づけていく。

女子のほうは少し抵抗していたものの、徐々にその動きを止めていった。

嫌な場面に遭遇した。
これでは、いけないところを必ず目撃する家政婦さんと同じだ。

校舎の裏手のほうへ逃げてしまおう、と思った。
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posted by c-book at 17:12| 【小説】くだらない話