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2015年07月05日

【小説】その瞳に写るもの 01

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色鮮やかな光が輝く歓楽街の片隅で、俺は身をひそめていた。
頭にかぶったニット帽から履きならした靴まですべてを黒に染め、暗闇に溶け込んでいる。

俺は手に持った一眼レフカメラのレンズをラブホテルにむけた。
そこは洋式の城のような造形をしており、入り口には立派な木の門が構えていた。
門のあたりはうす暗く、人もほとんど通らない。

カメラのISO感度や露光の設定もすませてあるので、光量が少なくても撮影はできる。
ばかでかい望遠レンズもセットしてあり、あとは目標がでてくるのを待つだけだ。


しばらくそうしていると木の門が重々しい音をたてて開き、一組のカップルが現れた。


サングラスをした背の高い男と目深に帽子をかぶった女だ。
目を隠しているが、端正な顔立ちを確認できる。一般人ではない独特の雰囲気も。

遠目から写真を数枚撮る。これはあくまで保険だ。

カメラから望遠レンズを取り外すと俺は路上へとび出してふたりの前まで走り、
即座にシャッターを切った。

まばゆいほどの閃光がカップルの周囲を包みこみ、機械的な音が歓楽街に連続して響いた。
路地は昼のように明るくなっていた。

男は顔を手でおさえながら「くそっ、撮るんじゃねぇよ!」と怒鳴る。
女は顔を見せないように男の背中に隠れた。もう遅い――

「俳優の中田智樹さんですよね。そちらは、モデルの友金さくらさん? 詳しい話を聞かせてくださいよ」
「うるさい。いいから、それを止めろ」
「昨年のドラマ共演からの付き合いなんですか? 
そのとき、中田さんには彼女がいましたよね。略奪愛だと噂されていますが、
友金さんはそれについてどうなんですか」

中田がつかみかかってきてカメラを奪おうとするが、俺は彼の手を振りほどこうと抵抗する。
もみ合いになり、俺は勢いあまって後ろに倒れた。

「ゲスいことしてんじゃねぇよ。カスが!」

そう言い残して中田たちは路地のむこうへ逃げていった。

彼らの姿が暗闇に消えると俺は立ちあがり、服についた砂を払いながらカメラの液晶画面を見た。
撮影した写真をスライド表示させながら光量やピントのずれ、撮影角度を調べる。
どうやら問題なさそうだ。

ホテルの近くに止めてある車の前まで戻ると、携帯電話を取りだして時間を確かめた。
午後11時、この時間であれば常駐の記者がいるはずだ。

俺はとれたてのスクープを売り込むために電話をかけた。
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posted by c-book at 20:17| 【小説】その瞳に写るもの