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2015年07月05日

【小説】その瞳に写るもの 02

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「おつかれさまです」
低い男の声で「藤原か、おつかれ。中田の密会現場は撮れたのか」
「ええ。あとでデータを郵送するので確認してください」

ここの出版社とは専属契約を結んでいて、案件につき支払われる金額なども細かく定めてある。
写真の無断使用や盗用がおきる心配はない。
データはノートパソコンからUSBメモリに保存して運送する手筈となっていた。

「で、どうよ」
「突撃取材は勘弁してもらいたいですね。最近の流行りじゃないでしょ」
「まあ、そう言うなよ。復刻記事の特集を組むんだ。で、殴られたのか」
「もみ合いになったくらいです。俺もカメラも五体満足ですよ」

つまんねぇなと記者はぼやく。

俺が無事でいる状態がなのか、あんたの不謹慎な言動をふくめた人間性がなのか、
聞いてみたくなったがやめておこう。

「藤原は若いわりに場数ふんでるからな。お前、何年目だ」
「10年です。この仕事は2年くらいやってますけど」

「じゃあ先輩の俺が教訓を伝授してやるよ。いいか……
だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をもむけなさい。
そして、殴られたことを記事にしなさいってな」


聖人君主の説法もこの男が喋れば下劣な大義名分となる。


「……心得ておきます。一応」
「まあ、原稿を用意して待ってるよ。それと神城真二の件なんだが、
浮気相手と一緒に長野へむかったそうだ。お前も早いとこ出発した方がいいぞ」

神城真二とは刑事ドラマの主役を演じて人気を獲得したイケメン俳優であり、
1年ほど前に一般女性と結婚したことで話題となった。

そんな彼が、新しいドラマの撮影をひかえたこの時期に浮気をしているとの情報が
編集部に舞いこんだのだ。

「分かりました。長野のどこですか」
「野沢だ。神城に近い関係者から聞いた情報だから間違いないだろう」

そのあと、かるく雑談をして電話を切ると、
車の後部座席に置かれたジュラルミンケースに撮影機材を片付けていった。
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posted by c-book at 20:21| 【小説】その瞳に写るもの