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2015年07月05日

【小説】その瞳に写るもの 04

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歓楽街から40分ほど車を走らせて自宅へ戻った。

八階立ての新築マンションで相応に眺めの良い六階、内装も広さもそれなりに良い。
ふたつある部屋のうち、ひとつはリビングと寝室を兼ねていた。
そこで黒い鞄に着替えをつめこんでいく。

以前はもうひとつの部屋を暗室にして使っていたが、
稼ぎが増えたので都外にある雑居ビルの一室を借りてスタジオにした。

名刺にも一応印字させているが、倉庫といっても過言ではない。
長野での撮影は車にあるカメラや機材で不足がないため、
そちらには寄らずに目的地へいこうと考えていた。

鞄を背負い、もうひとつの部屋へむかう。
ストロボの電池残量が気になったので、買い置きしてある電池をつめようとした。

そこは四畳半ほどの広さがあり、写真機の入れられたガラス棚が部屋を占拠していた。
壁には、過去の栄光とは死んでもいえない高校や大学時代に撮られた写真が掛けられている。
ここを訪れた父が勝手に飾ったもので、片付けるのが面倒なのでそのままにしてある。

床に雑多に置かれたビニール袋から電池を取りだして鞄につめこんだ。
その後、シャワーで汗を流して仮眠をとり、日が昇るころに家を出た。

小さな部屋の電灯を切るとき、ガラス棚に置かれた「OM10」という形式のカメラを見た。

レンズを外され、部屋の装飾品の一部と化しているそれが、
つれていってくれと主張しているように思えた。

だが、それを手にとることはなかった。
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posted by c-book at 20:31| 【小説】その瞳に写るもの