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2015年07月05日

【小説】その瞳に写るもの 05

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温泉から湧きでた湯気が白い靄となって青空を舞う。
連休明けの平日ということもあり、小さな駅のロータリーは閑散としていた。
駅から出てくる人もまばらだ。

俺は駅前にある喫茶店で昼食をすませ、車を背にして煙草に火をつけた。

先ほど編集部に電話をかけて神城真二たちが宿泊している旅館を聞きだした。
「叙庵」というらしく、著名な文豪がひいきにしていた由緒正しき宿だそうだ。

地元の住民に聞けば、場所もすぐに判明するだろう。

そんなところに一度は泊まってみたいものだ、
と徹夜明けで声が異常にかすれた記者は言っていた。俺もそう思う。

神城は2日後の昼にドラマ撮影が控えているため、その日の朝までには現場に入ることが予想された。

勝負は今日をふくめた2日程度、浮気相手とのツーショットか、
その関係を周知させられるような淫らな場面を撮らなければならない。


運転疲れをけむりと一緒に吐きだし、冷たい空気を吸いこんだ。


温泉地特有のにおいが旅行にやってきたという心境にさせてくれる。
そうしてつかの間の観光気分を楽しんでいたときだ。

だれかの視線を感じて首をかたむけると、女の子がカメラのレンズ越しにこちらを覗いていた。
俺も人のことは言えないのだが、最近の若者は肖像権もへったくれもないようだ。


携帯灰皿に吸殻を押しこみ、注意した。
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posted by c-book at 20:36| 【小説】その瞳に写るもの