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2015年07月05日

【小説】その瞳に写るもの 10

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階段の脇には額縁に入れられた多数の写真が飾られていた。

四季折々の風景写真、どれも臨場感のある構図で捉えられていて、
名のある写真家の作品とならべても見劣りしない情緒がある。

階段で開かれていた小さな写真展に、俺は素直に感心していた。

「おじいちゃんの写真なんだ」
「春花……」元哉さんは、怪訝な顔で娘の名を呼んだ。
「あっ、ごめんごめん」

階段を上りきり、
歩くたびにぎしりと音をたてる古木の廊下を歩いて突き当たりの部屋の引き戸を開けた。

落ち着いた雰囲気のある十畳ほどの和室だ。
部屋の奥、竹林の方にある窓から爽やかな風が吹き、い草のにおいが部屋に広がる。
旅行雑誌時代に泊まっていたら隠れ家的な宿として紹介していたかもしれない。

「お茶を入れますね」と元哉さんは畳の上に荷物を置いて、その場を離れた。

俺は玄関から左手にある窓に近づいて外を見た。
眼下にはけむりを噴き出す温泉町があり、そのむこうには新緑の映える山々がそびえている。

絶景かな絶景かな。
大きく伸びをしてけがれのない澄んだ空気を肺にいれた。

「……いい天気だな」
「うん、気持ちいいね」春花は穏やかな風にゆれる髪を手でおさえながら言った。


「ああ、そうだ。お父さんがあとで説明すると思うけど一応言っておくね。

温泉は1階の奥にあって、源泉かけながしで24時間営業中!
ただし、ひとつしかないからだれか入ってるときは気をつけてね。
入浴中の看板をしっかり見ること、私やお母さんの裸を覗かないでよ。

夕食は18時、朝食は7時半から1階にある食堂で。
別料金だけど地酒や信州ワインもあるから、たのんでくれたらお酌してあげる」


車のなかで聞いたのだが、春花の母である恵子さんは鈴竹の女将をするかたわら
町の理事をしているらしく、この日も町内会の寄り合いに顔を出していた。

春花曰く、そうとうな美人らしい。お酌されるならその人にされたい。

「さてと……とりあえず、現場の下見にいきたいんだが」
「叙庵だよね。じゃあ、しっかり案内させてもらいマス!」
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posted by c-book at 20:56| 【小説】その瞳に写るもの