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2015年07月05日

【小説】その瞳に写るもの 11

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元哉さんが運んできた大福とお茶で一服したあと、俺たちは先ほど通った道を歩きだした。

カメラの準備はハリコミの場所と時間を決めてからおこなう。

ただし、太陽があるうちは人目を気にして被写体が現れないかもしれないので、
夜間撮影をする可能性が高い。
ターゲットからは隠れていて、こちらからは見通しの良い場所を探す必要があった。

石の溝から湯気がわき出る坂道をくだり、温泉町で一番大きな通りに出た。
土産物屋がひしめいており、野沢菜の漬物やおやきといった名物が店頭にならんでいる。
人通りはまばらで寂れた印象をうけた。

春花はそんな町の情景を懇切丁寧に説明しながら記念だ、と言い、カメラのレンズを俺にむけた。
写真を撮られることが好きではないのでそれを手で隠した。

「どけてよ」
「いやだ。魂が抜かれるだろ」
「……なに、その旧時代のいいわけ。カメラマンのくせに卑怯だ」

近ごろの若者はなんにでも思い出を残したいのか、記念という言葉をよく使う。
それほど日々をすごすのが楽しいのだろうか。


彼女と同じように、俺は学生のころ夢中でシャッターを押していたのだろうか――


なぜか春花を見ていると、そんな疑問がわいてくるのだ。


人づてに聞いた話だが、子供と大人の時間感覚は違うらしく、
歳をとるほど1分や1秒を早く感じるようになるそうだ。

10代までは緩やかであとは急降下するように20代、30代と流れていく。
人生における時間の感覚はジェットコースターみたいだ、と変な悟りを開きそうになった。
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posted by c-book at 20:58| 【小説】その瞳に写るもの