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2015年07月05日

【小説】その瞳に写るもの 12

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「やっぱり、写真家って撮るのはいいけど撮られるのは嫌だって人多いよね」
「そりゃ嫌だろ。なんか気持ちが悪いんだ」

「確かに私も苦手だな。おじいちゃんもそうだったからさ、
遺影に使う写真を探すのにすごく苦労したんだよね」
「……おじいさんは亡くなっているのか」

春花は立ち止まり、それにつられて俺も足を止めた。
彼女は首からさげたカメラを強く握りしめ。

「うん。私が生まれるちょっと前にね。風景写真が専門なんだけど放浪癖のある人で、
たまに送られてくる絵葉書だけでしか行方をつかめなかったみたい。
定期的に届いてたから、こっちも安心してたんだけど、急に音沙汰がなくなって。
3ヶ月後に遺体が見つかったの。年寄りが登頂できるような高さじゃない険しい山の中で……
それがね、びっくりするよ」

上空の冷えた空気が温泉町の通りにすべりおりてきて俺たちの足元をすくう。
それは春花の明るさも奪って消えていく。


「カメラを握りしめたまま死んでたんだ。
ひとりぼっちで、辛くて寂しくて、すごく怖かったんじゃないかと思う。
それでも、最後までおじいちゃんはカメラを手放さなかった」


「……惜しい人を亡くしたな」
「でもね……父親としては0点だったみたい。
息子にも妻にも目をかけずに好きなことばっかりやってたから、父さんはすごく苦労したって」

写真に命を賭ける。
俺みたいな半端者にはたどりつけそうにない極致だ。

普通の人が聞けば感動するような美談なのかもしれないが、
俺は彼の芸術家としての生き方に狂気を感じた。死神に憑かれてまで写真を撮りたくはない。

「なあ、じいさんのことどう思ってるんだ」

祖父をそういったかたちで亡くしたにも関わらず、
孫である春花は彼の意志を継ぐようにカメラと真摯に向き合っているようだ。
親からの反対もあったのではないかと思う。

「尊敬しているし、軽蔑してる。
私のお父さんがおじいちゃんと同じようなことをしたらきっと許してないから。でも、なんというか……」

春香はひと呼吸おいて言葉を続けた。


「写真を撮りつづけていれば、おじいちゃんの気持ちも少しは分かるんじゃないかと思って」


そうかもしれないな、と俺は感情をこめずに呟いた。
素直に同意できないという気持ちが心の片隅にあったからだ。

「まあ、一番ひどいのは可愛い孫娘の顔も見ずに死んでいったことなんだけど」
「……っ」
「なんで無言なのよ」
「なんとなく同意できないからだ」

ひどいなぁ、と呟いて彼女は笑顔をみせた。
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posted by c-book at 21:02| 【小説】その瞳に写るもの