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2015年07月06日

【小説】その瞳に写るもの 17

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俺たちは旅館「鈴竹」へ戻るため、温泉町の裏通りを歩いていた。
春花曰く、こちらの方が近道だということだ。

そうしている間にも彼女は、沿路にある花壇や軒先で気持ちよさそうに居眠りをする犬といった
何気ない日常をカメラにおさめていた。

彼女が使っているのは、撮りきったフィルムを手動で巻き取るタイプの古いカメラだ。
フィルムも一般的なオレンジ色のネガフィルムではなく、リバーサル(ポジ)フィルムという特殊なもので
現像した際には映画のスライドのようなカラーフィルムを受け取る。

紙にプリントするときは、その中から好きなものを選んで現像してもらうのだ。
ポジで現像した写真はネガで撮ったものより色彩が鮮やかなため、
デジタルカメラが普及する前はプロやセミプロの間でよく使われていた。

ただ、ポジは露光の設定が難しいので、それをすべてカメラ任せにしている素人には扱えない。
適当に撮るとフィルムの良さが台無しになるだろう。

撮影に熱中している彼女に写真歴を聞いたら10年くらいだ、と言っていた。
それだけ経験があればポジを使っているのも納得できる。

「好きなのか、フィルムカメラ」
春花はファインダーから目を離し、こちらをむいて「あったり前でしょ」

「最近のデジカメなら、五万くらいだせば一眼レフの良いやつが買える。
取り直しがきくし、プリントするときに好きな写真を選べるから学生にはやさしいだろ」

ポジはネガよりもフィルム自体の値段が高い。
他にも、現像代やプリントの料金を考えると、デジカメの方がお金のない学生には使いやすいはずだ。

「写真は、二度と戻らない今を残すものでしょ。
チャンスはたった1回。それをいくつ撮れるかが勝負なの。
だから、デジカメみたいに取りなおしがきくカメラを使うとやっぱり上達しないと思う」

春花は分かってないわね、という顔付きで答えた。
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posted by c-book at 17:09| 【小説】その瞳に写るもの