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2015年07月06日

【小説】その瞳に写るもの 20

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山をおりてきた冷たい風が温泉煙をつれて舞いあがり、漆黒の空に白い衣を成している。
衣を着込んでふるえている朧月を見て、俺と同じく寒さに弱いのだと思った。

鈴竹の玄関に入り、最初に目に飛び込んできた光景は娘にほおずりをする母の姿だ。

「おーかーえーり」
「もう、離してよ」
「いいじゃない。愛情の確認よ」
「ちょっ……やだ。へんなとこ触らないで!」

その後「春花、胸大きくなった?」「うるさい!」という発言が耳に入ってきたのは幻聴だろうか。
母親じゃなかったら、いや母親だとしても色々まずいだろ。

唖然としていた俺に気づいたのか、恵子さんは春花を離して挨拶をする。

「そちらは藤原様ですね。おかえりなさいませ」

望郷の念にかられるほど穏やかで優しい声だった。
恵子さんは色白で線が細く、頭をさげるというさり気ない身のこなしにも、
女らしさを感じさせられる品格のようなものがある。

着物姿も美しく、さっきまで娘に抱きついてセクハラを働いていたエロ親父は
どこへ消えたのか探したくなった。

「いつも、そんな感じなんですか」
「ええ。親子のスキンシップは必要でしょう」
「人前でも平気で抱きつくし、ほんと最悪!」
「お客様も目の保養になるって言ってくれてるわよ」
「……そうかもしれませんね」
「納得しないでよ!」

この母にしてこの娘あり、という掛け合いだ。
祖父の放浪癖といい父親は家族でそうとう苦労しているだろうなと考えた。

俺はおざなりに雑談を終え、本題を恵子さんに伝えた。
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posted by c-book at 17:17| 【小説】その瞳に写るもの