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2015年07月06日

【小説】その瞳に写るもの 21

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「そういえば娘さんに聞いたのですが、神城真二がこのあたりに宿泊しているそうですね」

俺の仕事については黙っていた。
芸能人の密会現場を撮るという行為は大手をふって正しいと言えるものではないし、
へたに警戒されると彼らの情報を話してもらえない可能性がある。

春花にも余計なことを喋らないようにと念を押してあった。

「ええ。昨日から叙庵に泊まられているみたいで、あそこの仲居さんが興奮気味に話していましたから」
「外出されたりしているんですかね」

「どうでしょうね。目が大きいとか鼻が高いとか、
手の甲の血管がたまらないとかそういう外見の話ばかりでしたから」
「へえ……しかし、おもしろい仲居さんですね」

春花は思い出したように「井上さんのことかな」

「そうよ。彼女、有名人を見るためにあの旅館に勤めはじめたらしいわね。
仕事はきちんとこなしているから問題はないみたいだけど」
「だれかと一緒に宿泊しているという話も聞いていませんか」

恵子さんは険しい顔になり、どうしてそんなことを聞くのですか、と質問を投げかけてきた。

井上という名前を聞けただけでも収穫はあったといえる。
これ以上の詮索すると怪しまれてしまうだろう。

「週刊誌が好きなもので、ちょっとした興味本位ですよ」
「それならいいんですが……」
「なにかあったんですか?」

「実は、昨日から叙庵さんの前でハリコミって言うんですかね、
神城様を狙ってそういう記者の方々がたむろしていまして。
今日の寄り合いで、お客様の迷惑になるので追い払おうということになったんですよ」

俺は白々しくも、初めて知ったという素振りを見せた。
彼らと一緒に居たら危険にさらされていたかもしれない。
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posted by c-book at 17:46| 【小説】その瞳に写るもの