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2015年07月06日

【小説】その瞳に写るもの 22

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恵子さんは手を頬にあて万物を慈しむような笑みをうかべて。

「夕方くらいですかね。表門にいた記者さんに退去してほしいと話をしたのですが聞き入れてもらえず、
仕方なく当て身を入れたら悶絶してしまわれたので、お泊りの宿に強制送還させました。
裏門にいた方々も同じようにして旅館へ連れ戻しましたよ」

「えっ……?」

「ですから、彼らを気絶させたので今はあそこにだれもいませんよ。
神城様の滞在中は定期的に見回りをしますから、今後は不審者にうろつかれる心配はないでしょうし」

当て身とは首のつけね辺りを叩いて気絶させるあれか。と、いくらか顔が青ざめている春花に事情を聞いた。
彼女曰く、町内会にはタチの悪い酔っぱらいなどの対処をする荒事専門の仕置き人がいるらしい。
叙庵の見回りもその人がしているそうだ。

「せんえつですが、藤原さんはどのようなお仕事をされているのですか」
「……しがない会社員ですけど」
「休暇をとられてこちらへ来られたのですか」
「ええ、まあ」
「大掛かりな荷物をお持ちですが、あれは――」

恵子さんは虫も殺せないような菩薩顔をして質問を投げかける。
そのたびに心臓が踊った。

笑顔の裏にある威圧感というのか、責められているわけでもないのに額に汗がにじんでくる。
俺は動揺を顔にださないようにして必死に嘘をとりつくろう。

「中身はカメラです。実は……風景写真を撮るのが趣味なんですよ。
他にお金を使うことがないせいか、機材にばかりお金をかけてしまって腕はたいしたことないんですけどね」

「そうなんですか。うちの夫の父もカメラマンだったんですよ。
その影響で、春花も写真に目覚めてしまって」

春花が口を挟む「今日は情景の下見に行ってたんだ。
明日は本格的な撮影をするんだ、ってはりきってたよね」

ああ、そうだなと頷いた。ナイスアシストだ。
恵子さんも納得してくれたのか、圧力のない穏やかな表情で。

「不躾な質問をしてしまい申し訳ありませんでした。ちょっと過敏になりすぎですよね」
「いえ、そんな……気にしないでください」
「そう言って頂けると助かります。それでは、ごゆっくりお寛ぎくださいませ。
お客様の安全は私たちがしっかりと守らせて頂きますので」

頼もしいですね、と俺はほほを引きつらせながら言った。
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posted by c-book at 17:52| 【小説】その瞳に写るもの