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2015年07月06日

【小説】その瞳に写るもの 25

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俺はわけが分からずその場で慌てているだけだ。

頭を上げてもらい詳しい事情を教えてもらうと、
春花が話していた観光ガイトのバイトという話はまったくの嘘で、
彼女がこの旅館に客を連れてくるために芝居をしたのではないかということだった。

「本当にすいません。たまに宿を予約されていないお客様を連れてくることはあったのですが、
そこまでしていたとは……あいつ、学校もまともにいってないのに何をやっているんだ」

「どういうことですか」
「ああ、いえ……お恥ずかしい話なんですが、登校拒否というのか。そういう状態なんです」

新学年になり、組替えがおこなわれた月の話だ。
春花がクラスで人気のある女子生徒と殴り合いの大喧嘩をしたらしく、
その巻き添えにあい、春花の友人が顔を怪我してしまったのだ。

幸いにも傷は浅く、痕がのこるほどの大事に至らなかったが、
春花はそれを気にして学校を休んでいるそうだ。

夕刻の女子たちは喧嘩をした生徒か、もしくはそのとりまきだと思った。

「停学があけても学校にいかず、写真を撮りつづけているみたいです。
事情が事情なだけに怒ることもできないので、妻と相談して春花が登校する決心がつくまで見守ろうと……」
「そうですか……」

「やはり、甘かったんですかね」
「いや、そんなことは――」

俺は元哉さんに春花の観光ガイドとしての働きぶりを説明した。

どんな経緯があるにせよ、彼女のおかげで神城の周辺を探ることができたのは確かだ。
素直に感謝している。

それに、ここで春花が叱られて外出禁止にでもなれば仕事にも支障がでるだろう。

元哉さんは俺の話に、静かに耳を傾けていた。
その表情が、少しだけやわらいだ気がした。
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posted by c-book at 18:14| 【小説】その瞳に写るもの