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2015年07月06日

【小説】その瞳に写るもの 26

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「そうですか。春花が」
「出過ぎたことだとは思いますが、もう少し様子をみてもいいんじゃないかと」
「はい……あの、藤原様がよろしければ明日も、娘のことをお願いしたいのですが」
「ええ。こちらこそよろしくお願いします」

俺は快く返事をした。

そのあとで元哉さんに春花の居場所を聞いた。
彼女は浴場の掃除をしているそうだ。

俺は階段をおりて1階の奥へとつづく廊下を進み、清掃中という立て札が置かれた入り口の前に立つ。
紺ののれんには太い筆字で「温泉」と書かれていた。

外から名前を呼ぶ――
返事がない。

何度も呼びかけるが、それでも応答がない。
浴槽にまで声が届いていないのだろうか。俺は中に入るか、外で待つかを迷っていた。

「のぞき?」

不意に後ろから声をかけられ、背筋が冷えて固まるような気がした。
ゆっくりと振り返ると桜の模様がほどこされた浴衣を着ている春花がいた。

はだけた胸のところが目に入り、どくんと心臓が揺らいだ。
たぶん温泉という空気感にやられたのだ。
それか、単なる気の迷いだが、どちらにしてもこんな小娘にそういう感情を抱くなんて不覚だ。

ほのかな石鹸の香りをただよわせた彼女は、濡れ髪をタオルでふきながら怪訝なまなざしで俺を見ていた。

「……断固として否定する。ガキの裸なんぞ見たくない」
「あー、ひどい。私だって女なのに」
「というか、なんで風呂に入ってんだよ。掃除しろよ」
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posted by c-book at 18:17| 【小説】その瞳に写るもの