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2015年07月06日

【小説】その瞳に写るもの 28

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ソファに座る春花が俺の顔をまじまじと見た。
大きな瞳には不安や恐れが混濁している。

春花の心配はもっともだ。

俺に協力しているのをだれかに知られてしまえば罰を受けてしまうし、
町内の理事を務めている母親の責任も問われかねない。
ただでさえ、学校で起きた諍いで家族や本人が混乱しているのだ。

「彼女に会わせてくれるだけでいい。あとは自分でなんとかするから」
「そうじゃなくて、藤原さんが……」

私は別にかまわない、そんな言い方だ。
確かに撮影対象に発見されて暴力をふるわれるというのはよくある。
殴られて歯を折られたなんて出来事もざらだ。

しかし、他人の前にまず自身を心配すべきだ。

「ありがとうな」
「えっ?」
「協力してくれて。最初はやっかいなヤツだと思ったけど、本当に助かった……
こういう案件には馴れてるから心配するなよ」

不安にかられていた春花の表情が柔らかくなり、俺は微かな笑みをうかべた。

「うん……。じゃあ、ひとつだけお願いしていい?」
「なんだよ」
「時間ができたらでいいから、写真のことを色々教えてほしい」
「ああ。分かったよ」

俺は春花の頭をかるくなでると、彼女と別れて部屋へ戻った。

学校へいくべきだと説教する老婆心がないわけではないが、
春花から話をきりださないかぎりとやかく言う資格はないだろう。

俺も社会の縮図のようなあの場所は苦手で、満足な人間関係を築けなかったくちだ。
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posted by c-book at 18:24| 【小説】その瞳に写るもの