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2015年07月06日

【小説】その瞳に写るもの 32

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靴を履いて館外に出ると、空にカメラをむけている春花がいた。
フィルムを替えたとき最初に撮るのが当日の空模様らしい。
春花曰く、その写真だけでいつごろ撮影したものなのかが判断できるという。

写真に印字された日付を見ているうちに、
そういう表示を視覚化する能力が開眼したそうだが真相は定かではない。

ああ、特技といえば――

「料理は得意なのか」
「なによ、急に……」

なんとなく聞いてみたくなっただけだ、と言った。

「料理というより家事全般かな。家庭科の成績は5段階評価で7しかとったことないけど」
「……ありえない評価だな」
「それくらい得意なの。今朝のお味噌汁も私がほとんど作ったんだから」
「あれは美味かったな」
「えっ、ほんと?」

うそだ、と言ったら左側腹部にワンパンをいれられた。
気づいていたし、考えないようにしていたがこいつは年下のくせに俺のことを確実になめている。
じわりと痛むわき腹をさすりながらそんなことを思った。

俺たちは雑談を交えながら鈴竹周辺の散策をはじめた。
井上との待ち合わせまで時間があるので春花の写真撮影に付き合うことにしたのだ。

鈴竹の裏手にある竹林に囲まれた田舎道を歩き、高級料亭や旅館のならぶ道に出た。

建物の洗練された造りや、近くの駐車場に停められている高級車から敷居の高さがうかがえる。
建物と建物の間には林があり、それによって敷地の区切りがつけられているのだろう。

叙庵の別館である「昌庵」もここにあるのだと春花が説明してくれた。
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posted by c-book at 18:29| 【小説】その瞳に写るもの