clear.gif

2015年07月06日

【小説】その瞳に写るもの 40

--------------------------------------------------------
最初から読む(目次へ)⇒

--------------------------------------------------------
ウェイターがきたのでホットコーヒーを二つ注文し、
それがテーブルの上に置かれると同時に偽記事の趣旨にそった取材を開始した。

音声録音の許可をとり、ICレコーダーの録音ボタンを押す。
名前、年齢、仕事の内容、勤めている旅館の自慢できるところなどを質問し、
井上が緊張した面持ちでそれに答えていく。線の細い、聞きとりづらい声だった。

ひとしきり質問を終えたところで話題を変えた。

「少し、お聞きたいことがありまして」
「なんでしょうか」
「神城真二さんが叙庵に泊まられているとお聞きしたのですが、あれは――」

井上は顔をほころばせて、本当なんですよと言う。

「やはりそうですか。先ほど会われていたのも週刊誌の記者だったんじゃないですか」
「ええ。叙庵の近くにある茶屋で声をかけられまして、
ここで食事をご馳走してもらいながら神城様のお話をしました」
「なにか、頼まれごとをされませんでしたか」

嬉々としていた井上の表情がほんの一瞬曇る。
十中八九、神城たちの写真を撮るように頼まれたのだろう。
封筒を鞄に隠したことから、それを承諾したのではないかと察する。

いいえ、と井上は笑みをうかべて答えた。

あまり問いつめすぎると逃げられてしまいそうだ。
俺は彼女を刺激しないようにやんわりとした口調で話しだした。

「変な質問ばかりしていますよね。同じ記者としての興味といいますか。
正直なところを言うと田尻真帆さんのファンでして、
神城さんと付き合っていると聞いたときはショックでした。井上さんはどうですか」

もちろん快く話をしてもらうための嘘だ。
この仕事を引きうけるまで、田尻の顔も名前も知らなかったなんて言えるわけがない。
--------------------------------------------------------
次の話へ⇒


posted by c-book at 19:05| 【小説】その瞳に写るもの