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2015年07月06日

【小説】その瞳に写るもの 41

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「私も、神城さんがとくに好きだったから、その気持ち分かります」
「だから、色々と知りたいんですよ。田尻さんのこと。
もちろん、井上さんの迷惑になるのであれば話さなくても結構ですから」
「いえ。少しだけでしたら」

井上は申し訳なさそうに答えた。閉じかけていた心の扉をとどめられたようだ。

「神城さんの様子はどうでしたか」
「はい。それはもう満足されているようで――」

このあと井上は、神城の容姿や体格、坊主頭がくりくりで可愛いという話から
田尻の顔立ちのよさや服装、履いていた靴が黒いパンプスだったことまでを機関銃のごとく喋りまくり、
彼らの話題を終えると今度は聞いてもいないのに叙庵に宿泊した有名人を列挙していった。

裏をとる必要はあるが、それだけで記事が書けそうなネタばかりだ。
取材時よりもなめらかに話す彼女を、俺は呆れながら見ていた。

「はぁ。すごいですね」
「でも、やっぱり神城さんは違いますよ。独特のオーラがあるんです!
私は若手俳優のなかでは彼がダントツで好きなんですけど」
「は、はい」

少しの間、開けてはいけなかった扉からどうでもいい情報が湯水のように流れていた。
彼女の休憩時間や俺の精神力の疲弊もあり、このあたりでお開きにしようと提案した。
井上は立ちあがり、その去りぎわに本質にせまる質問をぶつけた。

「それだけ好きなのにいいんですか」
えっ、という面持ちで井上は俺を見つめた。

「なんのことでしょうか」
「先ほど、鞄に入れた封筒のことですよ」
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posted by c-book at 19:11| 【小説】その瞳に写るもの