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2015年07月06日

【小説】その瞳に写るもの 47

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例にもれず、大物芸能人の密会現場を撮影しにきている俺はいったいなんなのだろう。
たいした成果を得られたわけでもなく、
こうして物品を購入したり旅館に宿泊したりして町の利益に貢献しているのだ。

小町家の旅館や土産物屋にとってこれほどおいしい客はいない。
いっそ殺人事件でもおきていれば刺激的な日々をすごせたかもしれない、と考えるは不謹慎だろうか。

「どうしたの、怖い顔して」
「別になんでもない」

俺のなかにある空虚はいまだ埋まらずに存在していた。
それはこの町で感じた安らぎや癒しさえも吸収してゆき、発作的にどうしようもない不安や恐れを吐きだす。

胸のあたりを手で強くおさえて考えた。
最後まで組み立てたはずのジグソーパズルに、
たったひとつのピースが欠けているような喪失感といえばいいだろうか。

俺は絵を完成させるため、箱を逆さにしてまでピースを探すが見つけられない。
周囲を見渡しても暗闇しかない。目線を戻すと、今度はパズルごと消えてなくなっている。

もう、どうしていいか分からないし、どうすることもできない。

不安の波が穏やかになるまで耐えればいい。
何もせずにじっとしていれば、いつか痛みは引いていく。

俺は心の欠如に順応する術を身につけていた。
しかし、春花とすごすうちにそれが順応ではなく、ただ逃げているだけなのだと気づきはじめていた。

彼女は心配そうに俺を見つめて「仕事のこと、あんまり気にしない方がいいよ」
「してねえよ」
「でも、あんまり元気ないね」
「ほっとけ」
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posted by c-book at 19:36| 【小説】その瞳に写るもの