clear.gif

2015年07月06日

【小説】その瞳に写るもの 48

--------------------------------------------------------
最初から読む(目次へ)⇒

--------------------------------------------------------
「さっきまで湿っぽかったのに、ずいぶんと元気になったな」
春花は少し不機嫌になり「それを言うかな。自分だって子供みたいにいじけてたくせに」
「いつ、どこでだよ。だれかさんをなぐさめた記憶しかないけどな」

「この前、国語の授業で習ったんだ。藤原さんにぴったりの言葉。なんだと思う?」
「なんだよ」
「無能力者。なぁーーーんにもできない人」

あらあら、喧嘩をするほど仲が良いのね、という野次が聞こえた。
面倒だから喋るな。

「ガキが調子にのんなよ」
「要領の悪い、仕事のできないカメラマンに言われたくない」
「やってられないな、ばかばかしい。お前、もう旅館に戻ってろよ」
「あー、ひどい。利用するだけ利用しておいて捨てるんだ。お母さんにバラすよ」

神城たちの撮影が絶望的なため、長野にいることにたいした意味はない。
恵子さんに職業を知られて休養がとれそうにない状況になるのであれば、
荷物をまとめて帰宅すればいいだけだ。

別にかまわない、という顔を俺がしていたのか、春花はすこし慌てた素振りをみせる。

「い、いいの? 本当にバラすよ」
「気にいらなければ帰るよ」

春花は伏し目がちになり消え入りそうな声で。
「どうして、そういうこと言うかな」

いやな沈黙が流れていた。
--------------------------------------------------------
次の話へ⇒


posted by c-book at 19:40| 【小説】その瞳に写るもの