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2015年07月06日

【小説】その瞳に写るもの 49

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別段彼女を傷つけるような発言をした覚えはないのに、なぜ落ちこむのか。
いらないところで水をさしてくるわりに、こういうときに限っておばさんが喋らないのはなぜか。
どうでもいいが、この重苦しい空気をどうにかしたい。

「なんで黙るんだよ」
「別になんでもない」と言いながら、なにかあるような顔をしている。
「寂しいの――」「ちっがう!」

おばさんはいやらしい笑みをうかべて。
「ねえねえ、利用とかバラすとかどういう意味なの。あなたたち本当にそういう関係?」

違います、とおばさんの言葉をさえぎって答えた。
いらぬ誤解を招くわけにはいかないので、
俺の身元を伏せたうえで神城たちのことを興味本位で調べているのだと話した。

「ああ、神城さんね。叙庵に泊まっているんでしょ」
「ご存知なんですか?」
「だいたいは恵子さんから聞きましたよ。
なんでも明日から撮影のはじまるドラマに出演されるみたいで。私、楽しみにしているんですよね」

そうですか、と俺は相槌をうち長くなりそうな芸能ニュースから話題を変えようとした。


ふと、何かおかしなことを言われた気がしておばさんに聞き返した。


「恵子さんがその話を?」
「あの人、こういう噂が好きなのかよく話してくれるんですよ。顔が広いからすぐに町中に広まりますし」
「いつごろ聞いたんですか」
「昨日ですよ。寄り合いの帰りだったみたいで、少し話して帰られましたけど」

春花に真偽を確かめると彼女は申し訳なさそうにうなずいた。
どうやら本当のようだ。

「ちょっと待て。あの仲居が言いふらしてるんじゃないのか」
「違うよ。井上さんは社交的じゃないし、こっちから話しかけないと静かにしているような人だから」
「だったら、なんで」
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posted by c-book at 19:42| 【小説】その瞳に写るもの