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2015年07月06日

【小説】その瞳に写るもの 50

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俺はぼんやりと考えごとをしながら土産物屋を出た。

春花に言われたように取材時の井上の印象からすると、
誰かれ構わずに喋りかける人には見えない。
むしろ、俺や記者のような聞き方をしなければ率先して話すことはないのだろう。

この違和感はなんだ。
だとすると――彼女の行動は不自然すぎないか。

春花は俺に追従してきていたようで、通りで服の袖をつかまれてその存在に気づいた。
迷子の子供みたいな顔をしていた。

大丈夫なの、と問われた。
問題ないと答えた。

春花にはまだ活躍してもらわなければならない。
俺はカメラの機材が入れられた背負い袋のなかからICレコーダーを出して、
先ほど井上と交わした会話を耳元で再生させた。

井上が神城の坊主頭について話しているため、彼を目にしたのは本当なのだと推測できる。
だが、隠し撮りの話について彼女は無理だと言っている。

それが心情的な理由なのか、物理的な理由なのかは分からない。

レコーダーの電源を切りポケットにしまうと、そこから煙草を出して火をつけた。
けむりとともに観光気分を吐きだし、最後の賭けに勝つための考えを頭の中でめぐらせた。

一通りまとまったところで春花に頼みごとをして彼女と別れた。

日が傾き、黄昏に変わりはじめた空から冷たい風が吹きつける。
俺はジャケットをしっかりと着込んで、寒さに身を屈めながら叙庵の近くにある茶屋へ向かった。
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posted by c-book at 19:45| 【小説】その瞳に写るもの