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2015年07月06日

【小説】その瞳に写るもの 52

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俺をふくむ週刊誌の記者たちは神城が叙庵にいるという
匿名の目撃情報を頼りにしてハリコミをしていた。

では、その情報を流したのはいったいだれなのだろうか。

最初は井上だと考えられたが、彼女と会うことで、
自らすすんで噂を広めるような性格ではないと判断できた。

それに、井上は神城だけでなく田尻の情報まで細かく調べあげていた。
芸能情報に詳しいとはいえ、好みの男優と付き合っている女性の靴の種類や色まで覚えているのはおかしい。

普通は見たくもないと拒絶するはずだ。
お金を受けとったのも記者がしつこいのであればそうしろ、とだれかに指示されたからだろう。

他にも、昼間の会話で恵子さんが噂好きだという話題が出たが、それも変だ。
制裁をくわえてまで観光客を守ろうとする町内会の理事が、記者たちに伝わるように噂を広めるはずがない。


あきらかに行動が矛盾している。


ふたりに共通している要素が町内会の寄り合いだとすると、
神城が叙庵にいるという情報は、記者を引きつけておくための罠ではないかと推察できた。

町内会は観光客の安全を守るという理念のもとに、
へたをすれば暴力沙汰になる神城と記者の遭遇を防ごうとしたのだ。

神城たちは叙庵に宿泊しておらず、別の旅館にいるのかもしれない。
俺はこの仮説にもとづいて行動しただけだ。

一通り話し終えると春花が嬉しそうに「おお! すごいね藤原さん。探偵みたい」
そう言われると恥ずかしいのだが、心のうちを表に出さずに喋りつづけた。
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posted by c-book at 20:00| 【小説】その瞳に写るもの