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2015年07月06日

【小説】その瞳に写るもの 55

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鈴竹の裏手にある道は、
両側に生えている竹林が暗闇を包みこんで奥行きの分からない洞窟のようになっていた。

地面にある枯れ葉を踏みしめるたびに場の空気が湿っていくようで、
幽霊や妖怪のたぐいが出てきてもおかしくはない雰囲気をつくりだしている。

俺は懐中電灯の光で足元を照らしながら転ばないようゆっくりと歩いた。

どこかで同じような道を歩いた気がする。
目的地の見えない闇のなかを進みつづけていると、突然開けた場所に出る。
真ん中のあたりにほのかな灯火があり、
そこには、なにかとても大事なものがあったように感じるのだ。

現実なのか夢なのかデジャヴと呼ばれるものなのかは分からない。
ただ、足を進めていくうちに
不安や恐怖といった負の感情がゆるやかに消えていく感覚は共通していると思う。

竹林の道をぬけると料亭や旅館のならぶ通りに出た。
一定の間隔で街灯があるため、見通しは良い。

懐中電灯を袋になおし、
提灯や看板に書かれた名前を確かめながら歩いたところで昌庵を見つけた。

叙庵ほどではないが趣のある立派な建物だ。
俺は昌庵の入り口が見渡せる脇道の角で様子をうかがうことにした。

こちら側に駐車場があるため、神城たちは必ず姿を現すだろう。

上着のポケットから煙草を出し、
なけなしの一本を口にくわえて火をつけ、雲をつくるように空高くけむりを吐いた。

仰いだ空は星や月の光をさえぎるほど分厚い雲に覆われていた。

それは、どこまでも遠くどこまでも深い、
望みつづけていると吸いこまれて消えてしまうのではないかと錯覚するほどの暗闇だった。

煙草の火を消し、昌庵の入り口に視線をあわせた。

まわりに人影はなく、風も吹いていない。息づかいと心音だけが木霊している。
カメラを握る手に自然と力が入り、汗ばんできているのが分かる。
徐々に早くなる鼓動を抑えようと、深い呼吸を繰り返す。
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posted by c-book at 21:13| 【小説】その瞳に写るもの