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2015年07月06日

【小説】その瞳に写るもの 57

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どういうつもりだと小声で聞いたら、ごめんなさいとしおらしく呟いた。
俺は冷たく突き放すようにそう思っているならここに来るな、と言う。

彼女は昼間のものより新しい型のフィルムカメラを首からさげていて、
目立たないよう黒のスウェットを上下に着込んでいる。

その意気は認めるが、この大事な場面で首をつっこまれては困るのだ。

帰れ、と一言だけ伝えてふたたび昌庵へ目をむけた。
一組の男女らしき影が視界に入る。

こちらへ近づいてくるにつれてその風貌が確認できた。
男はバンダナみたいな布地の帽子を被り、
黒縁のメガネをかけていて女は茶色いサングラスをしている。

美しい容姿や独特の雰囲気はどこか神がかっているとでもいうのか、
テレビや雑誌のなかにしか存在しえない特別な人間のように見えた。

ふたりの顔写真は瞳に焼きつけてある。間違えようがない。
カメラのシャッターに指をそえ、脇をしめて大きく息を吐きだした。

おちつけ、撮影できればしばらく仕事をしなくても悠々と暮らせるほどの大金が手に入る。
おもいっきり休暇を楽しんで、心の欠損なんて忘れてしまえばいい。
痛みをごまかして何事もなかったかのようにすごせばいいのだ。

ファインダーごしに神城たちを覗く。
田尻が神城の腕を持ち、寄り添いながらいちゃついている。
神城が田尻を抱きよせた。ひとさし指に力が入る。


その刹那、青天の霹靂のような悪寒が背筋をつんざいた。


俺はひどい考え違いをしていた。
いや、とてつもなく思慮深さが足りなかったのだろう。

春花がここに居るという時点で、
彼女があとをつけられている可能性があることに気づいておくべきなのだ。

春花ではなく何か別の敵意ある存在が後ろにいる。
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posted by c-book at 21:20| 【小説】その瞳に写るもの