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2015年07月06日

【小説】その瞳に写るもの 59

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「み、み、見回りですか」
「はい。時間があるときに歩き回る程度なんですが」
「だったら、どうしてここに」
「偶然、と言えば嘘になりますね」
「必然だと困るんですけど」
彼はほほえんで「あはは。おもしろいことを言いますね」

視界が悪いせいもあるのではっきりとは断言できないが、彼の瞳は笑っていなかった。
むしろ、ぎらつきが増したように思う。

「春花が変な格好をして出ていくのを見かけたものですから後をつけさせてもらいました。
ただ、あなたがここにおられるとは考えておりませんでした」
「俺もですよ。一生の不覚です」
「叙庵が隠れ蓑だとお気づきなんでしょう」

ここで、しらばくれても仕方ない。俺も春花も格好からして不審者なのだ。

「一応は」
「妻にあなたのことを気にかけておくように言われておりました。
根拠のない女の感だったそうですが、意外とばかにはできませんね」

すべてはあなたの手の内だったということですね、
と知的な犯人であれば気のきいた捨て台詞を残すかもしれない。

などと、余計な思考を働かせている場合ではない。

通りに出れば神城に見つかる。
このままここにいても、元哉さんに取り押さえられる。

前門の虎、後門の狼という状況をなんとか打破しなければ俺は虎の餌にされてしまうだろう。
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posted by c-book at 21:28| 【小説】その瞳に写るもの