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2015年07月06日

【小説】その瞳に写るもの 63

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春花は俺に黒いフィルムケースを差しだした。

「お宝を献上しにまいりました!」
「なんだよ。これ」
「昨日の写真」

神城に踏みつけられていたカメラはレンズが割れ、
取りつけられていたストロボの配線は丸裸となり、
本体の破片があたりに散乱しているような状態だった。

俺はどのパーツも復元は不可能だと判断したが、
春花は神城たちが去った後、闇夜のなかでそれらを回収していたのだ。

大切なものを繋ぎとめるよう、ひとつひとつを丁寧に。

「あれから分解して、巻き取れてたフィルムをここに入れておいた。
夜だったし、解体作業も暗室でやったから感光は防げたと思う。
写真のできばえは現像してからのお楽しみかな。
デジカメだったらデータごと壊されてただろうし、時代には逆らってみるものだね」

春花の手のひらをよく見ると絆創膏がはられていた。
視線を顔に移すと、目の下あたりにくまができているようだった。

彼女は俺の目線に気づいてはにかんだ。
それから、はじめてカメラを分解できて楽しかったこと、
学校に復学するという条件で昨日の一件を許してもらえたことを話してくれた。

それを聞くほど、春花という人間が分からなくなってきた。
出会って三日ほどしか経っていない俺になぜ彼女はこうまでしてくれるのか。

両親を敵に回して身を危険にさらし、
写真家にとって何よりも大事なカメラを壊されても笑顔で迎えてくれる。
利害関係のない親切の押し売りなんて気味が悪いだけだ。

「あっ、もしかして俺のために、とか考えた?」
「考えてねえよ」
「それもあるんだけどね。理由は別だよ」
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posted by c-book at 21:50| 【小説】その瞳に写るもの