clear.gif

2015年11月21日

【小説】ひとりぼっち 31

--------------------------------------------------------
最初から読む(目次へ)⇒

--------------------------------------------------------
私は体育座りをしたままその話に耳をかたむけていました。
退屈な怪談を聞くよりも、はるかに興味深い内容です。

「白線は下ネタばっか話すんですよ。スカートの中を覗くのが日課だとか、なんか足フェチらしくて、
ふくらはぎの美しい女性にピンヒールで踏まれるのがたまらない快感だとか――」
「真剣に聞いて損した」
彼は慌てるように「いや、おれが言ったんじゃないですよ。聞いてただけなんですって」
「それで、どうなったの?」
「信号機のほうはいいヤツで、おばあさんとか車椅子の人が通るときは
いつもより長く青ランプを点灯させるみたいです。
そんな話を聞いて俺は笑ってたんですけど、急にふたりが黙りこんだんです。

こっちが話しかけてても全然しゃべってくれなくなって。
無視してるだけなのか、話すことができなくなったのはわからないんですけど、
俺はまた人間を探しはじめました。

そこからは、さっきの展開の連鎖です。ポスト、鉄塔、道端に落ちていた空き缶、
燃えるほうと燃えないほうの双子のゴミ袋、どれもしばらく会話を続けると沈黙してしまう。
その度に孤独になる感じがして歩くのをやめたんです。
こんなことが続くならもう誰とも会いたくないって」

ぴしっとヒビの入るような音が胸の奥で響きました。痛いほどの理解というのでしょうか。
夢の中の彼は、今の私と同じ状況に立たされている気がしました。

「あなたはそのまま立ち止まっていたの?」
「いえ、動きました。というか動かざるをえなかったんです。いつのまにかケータイを無くしていたんです」
「どこかで落とした」
「そうですね。だから、ふりかえって今まで歩いてきた道を進もうとしました。そしたら目の前に女の子が急に現れて――」

私はごくりと息をのみ、受話器から聞こえてくる声を漏らさないよう耳に意識を集中させました。

「小学校に入りたてくらいの小さな女の子でした。

顔や髪型、格好はどこにでもいるような感じで、
詳細には覚えていないんですけど、とりたてて特徴はありませんでした。
こうやって驚かされたりしなければ印象に残らない、
目覚めた瞬間に忘れてしまうような影の薄い子だったと思います。

彼女は右手を差し出し、交換しようとつぶやきました。
交換という意味がわからなかったのでどうすればいいか聞くと
『あなたの大切な時間をちょうだい』と言われました。

この子と遊んであげればいいのかなと思ったので、いいよと答え、彼女の手を握りました。
彼女は嬉しそうに微笑み、なにか言おうと口を動かすんですけど聞き取れなくて……。

そこで不意に目が覚めました」

「携帯電話は?」
「起きた時、手で握っていたんです。寝ぼけてアラームを止めたからだとは思うんですけどなんか気になっちゃって」
--------------------------------------------------------
次の話へ⇒


posted by c-book at 01:46| 【小説】ひとりぼっち