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2015年07月02日

【小説】くだらない話 34

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side 新井シンジ「嘘つきと泣き虫」
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僕と同じ、嘘と本当のまじった手紙。
ただ――ひとつだけ、決定的に違うところがある。

僕は自分のため、彼女は僕のためにそれを書いたということだ。

神谷と村沢先輩の関係は彼氏彼女とよべるものではないような気がした。
手紙に書かれたままなら、僕は彼女をつれて逃げてはいないだろう。

僕と文通をやめるために、神谷は先輩と付き合っていたのかもしれない。

手紙の文章は何度も書き直されたのか、
消しゴムのあとや筆圧によって転写された透明な文字が数多く残っていた。

僕の名前がうまく書けなくて、
知らない漢字を必死で書いて、
ありがとうなんて聞きなれた一言に納得がいかなくて、何度も書きなおした。

そうして新しい紙を使うたび、上から書かれた彼女の気持ちがそこに残されていったようだ。

僕は文末にも消された文字をみつける。
うっすらとしか視認できないそれをシャーペンでこすり、浮かび上がらせた。


「まだ、文通をつづけたい」


僕はそれを見つめたまま立ち尽くした。
かちりかちりかちり、と時計の針だけがその単調な音を響かせていた。
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シンジEND⇒
ナオEND⇒


posted by c-book at 17:30| 【小説】くだらない話

【小説】くだらない話 33

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side 新井シンジ「嘘つきと泣き虫」
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帰宅した僕は鞄から手紙を取り出して読みはじめた。



新井くんへ。

この前の手紙で彼氏ができたって書いたよね。

その話なんだけど、彼に文通のこと話したら誤解されてケンカしたの。

だからもう……

でも、最後にひとつだけ言いたいことがあるんだ。

新井くん、私にずっと嘘ついてたでしょ。

手紙の中のあなたは、教室にいる時と同じ。みんなの話に合わせて相槌をうって笑顔を振りまいて。

なんて言っていいかよく分かんないけど、受け流してる感じがした。

でもね、校舎裏にいる時はぼーっと何か考えてるみたいで。

その時ね、この人、好きなことしてる時はすっごく無防備なんだって、幸せそうだなって思ったの。

最初は去年の春先に校舎裏の花を見てすごくキレイだなって、

なんて言うか女の子が入れてもらえない秘密基地みたいな場所かな。

誰が育てているんだろって興味がわいた。

まあ、家庭科の授業中にその人を見つけられるなんて思わなかったんだけどね。

それで気になって手紙を渡したの。新井くんをもっと知りたくて。

でも、結局本当のことを書いてはくれなかった。

少しは書いてくれてたかもしれないけど、そこからあなたの本心は読み取れなかった。

手紙でも、ポケベルでも、日々の会話でも繋がりができれば何でも良かった。

今は心に響かない言葉も、繋がりを保ってさえいればいつかは分かり合えるって。

私は信じてる。

今も考えてる、新井くんを知りたい、本当に笑ってる顔を見せて欲しい。

馬鹿だって思うよ、フラれてるのに。

彼氏がいるのにズルイってことも分かってる。

うんん、ごめん。

こんなこと書いて。ダメだよね。

面倒くさいでしょ、私。

これっきりにする。今までありがとう。
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posted by c-book at 17:28| 【小説】くだらない話

【小説】くだらない話 32

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無言のまましばらく走った。

息が切れて、苦しくて、肺が酸素を欲しがっていた。
それでも、足を止められない。

神谷の呼吸も荒くなっていた。
腕もつかんだままだ。痛くないだろうか、と考えた。

学校が見えなくなるところまで来て立ち止まる。

馴染みのある通学路だ。
夜のとばりは下りてあたりは闇につつまれていた。

ふたりともうつむいて目もあわせなかった。

荒い息づかいも、切れかかって点滅している街灯の鳴き声も、
すぐそばを横切る車の音も、聴こえるはずのそれらすべてが無になっていた。

僕はつかんでいた手を離した。


とっさに、神谷がその手を握った。


落ち着きかかった心臓のエンジンが、再び動きだす。
火照った身体がさらに熱くなる。
手の先まで真っ赤になっているのでないかと錯覚するほどだ。

彼女の手は、ひんやりしていて柔らかい。
ひとさし指のあたりに少しだけ涙のあとが残っていて、握り返すとそれが感じられた。

しばらくそうして、ぬくもりを分かち合った。


そして、何も言わないまま僕らは別れた。


言葉は必要ない。彼女の真意なら――鞄の中にある。
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posted by c-book at 17:26| 【小説】くだらない話