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2015年07月02日

【小説】くだらない話 28

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side 新井シンジ「嘘つきと泣き虫」
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からんからんと空き缶がころがりドブの中に落ちていく。
退屈になった足を空中からアスファルトに戻し、僕は顔を上にむけた。

鈍重な雲は夏風にふきとばされたのか、空はきれいな茜色をしている。
午後から振るはずだった雨はどこへいったのだろう。
文句のひとつでも言ってやりたい気分だ。

今の時期、花壇に植えられているのは乾燥に強い花ばかりだ。
夏の強い日差しをうけても2〜3日はもつのだが、
今日の予報を真にうけていた僕は昨日の日課をさぼっていた。

別にもう1日くらいサボっても良いと思う。
けど、僕には家に帰りたくない理由があった。


神谷から渡された手紙だ。


彼女の様子からして何が書かれているのかは気になっている。
しかし、それ以上に封筒を開くことが不安で避けたい気分だった。

それが、なぜかは分からない。
下校中に鞄からとりだして封筒を閉じる懐中時計のシールをはがそうとすると、
手が自然と止まる。

身体も心も魂さえも動かなくなって石みたいに固まる。
感覚がそれを開くことを拒否するのだ。

捨ててもいいかもしれない。
どうせ、神谷も僕と同じことを――

文通の終わりを告げる手紙を書いているはずだ。
先輩と付き合いはじめた彼女にとって僕は、邪魔モノでしかないのだから。

この変な気持ちをまぎらせるため、見慣れた通学路を急いだ。

軍手をはめて、

土でもいじって、

花に水をあげて、

小さな虹でもつくって、

いつもの単純作業をくりかえせば考えなくなる。気にならなくなる。
そのうち忘れて、いつもの静かな日常が訪れるはずだ。
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posted by c-book at 17:11| 【小説】くだらない話

【小説】くだらない話 27

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side 神谷ナオ「私と先輩」
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ついにきたか、と思った。
それを許すわけにはいかないので後ろへ一歩さがる。

「やめてください」
「いいだろキスくらい。それで明日さ、がんばれると思うんだよ」
「でも……できません」
「別にいいだろ。俺たち付き合って一ヶ月はたってるし、そろそろ許してくれてもさぁ」

先輩が一歩前に踏みだし、右手で私の腕を掴んで身体を引き寄せた。
その手は抵抗を許さないように力がこもっている。

ざわりざわりと雑木林が風で音をたてる。

私はなす術もなく抱きしめられた。
それと同時に、胸の奥で金属がこすれるような不快な気持ちがうまれた。

まわされた腕を振り払おうともがくが、外れない。

村沢先輩が顔を近づけてきた。
いや、と小さく言ったが先輩の耳には届いていないようだ。

顔を見上げる。
息が荒い。
唇が重なり合う数センチのところまできた。


私は悟った。


もう諦めてしまおう、忘れてしまおうと。

身体の力を抜いて静かに目をとじた。
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posted by c-book at 17:08| 【小説】くだらない話

【小説】くだらない話 26

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side 神谷ナオ「私と先輩」
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「おつかれさま。調子はどうですか?」
「いやぁ、絶好調だわ。明日もバンバン点とれそう」
「そっか」
「……あのさ、あとでちょっといいか」

たぶんデートの誘いかなにかだろう。
いいですよと答え、私は倉庫へ入っていった。

窓から入る光でほこりが空中に映りこむ。
私は片手で口をおさえながら、もう一方の手でボールカートをどけて進む。

部屋の隅には白いチョークで作戦が書きなぐられた黒板や、部の書類の置かれたロッカーがある。
私はロッカーからオーダー表や部の日誌をとりだして体育館へ戻った。

明日が試合ということで、その日の部活は六時前に終わった。
外はまだ明るく、かすかにオレンジがかった空を仰げた。

制服に着替えた私は村沢先輩とふたりで、校舎と体育館にはさまれた土地を歩いていた。
屋根のある通路をつっきって花壇の近くまで行き、左へ進んで体育館の裏手へとまわる。

そこは体育館が日を遮っているため大きな影ができていて、薄暗かった。

左手には白い壁、右手には雑木林、
正面には面長の彼氏がいる。

先輩は真剣な顔で私を見つめていた。
少し嫌な予感がしたので聞いてみる。

「なにか、あるんですか」
「ああ、いや、そのだな……」



と、村沢先輩は距離をつめて私の肩をつかんだ。
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posted by c-book at 17:06| 【小説】くだらない話