clear.gif

2015年07月02日

【小説】くだらない話 25

--------------------------------------------------------
最初から読む(目次へ)⇒

side 神谷ナオ「私と先輩」
--------------------------------------------------------
3限目、黒板に文字を書く数学教師から目線を窓際へむけた。
彼は窓の外にひろがる灰色の世界を感情もなにもない顔でじっと眺めていた。

私のことを考えているのだろうか――

いや、もうどうでもいいことなのだ。
目線を黒板に戻し、ノートに因数分解の数式を書きはじめた。

授業が終わり、彼は教室を出てそのまま帰っていった。
今日は午後から雨の予報がでていたから、たぶん部活動をサボったのだろう。

少しだけほっとした。

私は更衣室で制服から赤い上下のジャージに着替えて体育館へ向かった。
明日はバスケ部の練習試合が予定されていて、
選手のゼッケンやユニフォームの用意などをしなければならない。

帰ってひとりになりたいとも考えたが、別のことに集中して気を紛らせようとした。

鉄製のドアを引いて体育館に入ると、
シューズが床にこすれる音とボールを弾く音が大きくなった。
夏が近いこともあり、蒸し暑くしめった空気が満ちている。

バレー部や卓球部は屋外練習をしているため、今はバスケ部が広い空間を占領していた。
私は練習の邪魔をしないようコートの端を通って、奥にある倉庫へ行こうとした。

「おーい、ナオ」

呼び止められて振り返る。ああ、彼氏の村沢先輩ですね。
--------------------------------------------------------
次の話へ⇒


posted by c-book at 17:04| 【小説】くだらない話

【小説】くだらない話 24

--------------------------------------------------------
最初から読む(目次へ)⇒

side 神谷ナオ「私と先輩」
--------------------------------------------------------
私は、私自身が心底嫌いになっていた。

好きでもない男と遊園地に行ったり、映画を見にいったりしていた。
作りものの顔で笑いかけ、できるだけ楽しそうに嬉しそうに彼女という役割を演じた。

心は虚ろだった。
そのくせ、彼を思い出すと胸のあたりがしめつけられるようで、苦しいのだ。

いっそロボットにでもなれれば、こんな思いをしなくてもいいだろう。
油がきれて身体が軋みだし、バネやねじが錆びついて外れてゆき、
動かなくなって何も感じなくなる。

人間は不思議で不自由で不規則で不満ばかりがつきまとう。
涙腺は壊れやすいくせいに心はなかなか壊れてくれないんだ。

私はそんなことを考えながら、最後の手紙を書いた。

次の日の朝、靴箱の前で彼と会った。

はい、コレ。私は手紙を差し出した。
読んでもらいたいの、と言った。

「今日は手渡しなのか」

深刻な表情さっしたのか、彼ははじめて私の顔をまっすぐ見た。

「なにかあったのか」
なんでもないよ、気にしないで。

嘘をついた。どうしてこんなときだけ、と思った。
今まで生きてきて一番見られたくない顔だ。

私はすぐに駆け出したかった。
けれど、重くてからみつくような空気が足を地面から離さない。
必死で動かそうとすると、先に声が出た。


それじゃ、バイバイ。


言葉を発した瞬間、足が軽くなり私は急いでその場を後にした。
--------------------------------------------------------
次の話へ⇒


posted by c-book at 17:02| 【小説】くだらない話

【小説】くだらない話 23

--------------------------------------------------------
最初から読む(目次へ)⇒

side 新井シンジ「晴れのち曇り」
--------------------------------------------------------
神谷も僕に気づき、走って近づいてくる。
僕は鞄から手紙を取り出そうとファスナーに手をかけた。

「はい、コレ……」

えっ、とふぬけた表情でそれを見た。
僕はまだ手紙を出していない。
にも関わらず、彼女の手にはいつもと同じ、時計ウサギがプリントされた封筒が握られていた。

「読んでもらいたいの」

手紙を受け取りながら聞いてみた。
今日は手渡しなのか。
うん、と頷いて神谷は何か言いたげな仕草をする。

なにかあったのか、彼女の顔を見ながら言った。はじめて目が合った気がする。
「なんでもないよ、気にしないで」はにかみながらそう言った。


無言。短いようで、長いような。
どくんどくん。静かだけどよく通る心音だけが聴こえる世界。


やがて、彼女は小さな唇を動かす。
「……それじゃ、バイバイ」

神谷はそう言い残して足早に去っていく。
彼女の雰囲気から何かを感じつつも、僕はその背中を見送った。

午前も昼休みを挟んだ午後も授業にまったく身が入らなかった。
授業中に神谷を見ると、窓から吹く風で彼女の黒髪がなびいていた。

彼女の顔は朝と変わっていない。



目頭が赤いままだ。
理由を尋ねる資格を、僕は持ちあわせていない。
--------------------------------------------------------
次の話へ⇒


posted by c-book at 17:00| 【小説】くだらない話