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2015年11月20日

【小説】ひとりぼっち 23

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声を荒げましたが、応えてくれる者はおらず、物音さえもしません。
耳をすまして人の気配をたしかめようとしました。

かすかに感じられるのは自身の息づかいだけです。

私は本当に見捨てられたのかもしれない、少ない情報からその結論に至ることはできました。
ただ、それを素直に認めることはどうしてもできませんでした。
他の3人はともかく晃だけは私を助けてくれると信じていたからです。

彼らは何か事情があって私の呼びかけに答えられないのではないか。
だから返事ができないのかも――。

冷静にならなければいけない。
意識がはっきりしている私が取り乱してしまえば事態はより悪化してしまう。

あれこれと考えた結果、私はひざをついてよつんばいになり、手探りで携帯電話を探しました。
液晶画面のバックライトやカメラのフラッシュ機能が懐中電灯の代わりになると思ったからです。

部屋の出入り口や、晃たちの状況を目視できなければ脱出どころではありません。

それはほどなくして見つかったものの画面は割れ、
数字キーの部分は踏まれて押しつぶされた状態でした。

ただ、液晶画面の三分の一はかろうじて機能しており、微弱ながら明かりとして使えそうです。
携帯電話を前に突きだし、何かにひっかけて転ばないようにすり足で暗闇の中をゆっくりと進みました。

しばらくして壁につきあたったので足元のごみを払ったあと、
手近にあったガラス片を二、三枚重ねて目印にしました。
こうしておけば壁沿いに部屋を一周したとき、自分がどこにいるのかがわかるはずです。

壁を正面にした右側には鉄製の棚が置かれていたので、障害物のない左側のほうにむかいました。
少し前進したところで部屋の隅に人の気配を感じました。耳をすますと微かに息遣いが聞こえてきます。

だれかいるの、と声をかけました。
応答はありません。

晃の名前を呼びました。続けて梓の、留衣の、耕太の名前も呼びました。
やはり反応がなく、私は怖くなってその場に立ち尽くしてしまったのです。

返事をしてくれないのはなぜなのか、もしかすると私たち以外に別の人間がいるのか、
あるいは廃墟に住み着いた幽霊なのか――
考えがまとまりません。頭がおかしくなりそうです。

しかし、逃げるわけにもいきません。

私は深く呼吸して気を落ち着かせると、一歩、また一歩とそれに近づきました。
距離が縮むにつれて心音も早くなっていきます。
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posted by c-book at 18:00| 【小説】ひとりぼっち

【小説】ひとりぼっち 22

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意識を取り戻した、と感じることができたのはてのひらにできた切り傷を舐めたからでした。
傷を通して得られる痛覚と、舌先に残る味覚以外に自身がどこにいるのかを判断する材料はありませんでした。

視覚は黒一色に染まり、聴覚は耳鳴りが反響しつづけ、
触覚はマヒしているらしく自分が立っているのかすわっているのか寝転んでいるのか、

それさえも感じ取れなくなっていました。

しばらくその場でじっとして心を落ち着けました。
ゆるやかに戻っていく感覚のなかで自身が床に横たわっていることに気づきました。
お腹に力をいれ、上半身をおこして傷のないほうの左手で周囲を探りました。

土ぼこりや書類、ガラスの破片やネジのような金属片が床に転がっています。
そうした仕草は小学校のころに教科書で見たヘレン・ケラーのようでした。

普段の生活でもっとも使うことが多いであろう目や耳が頼りにならず、
残された感覚だけでひとつひとつの現実をたしかめていくうちに世界が広がっていく、
とでも言うのでしょうか。なぜかそれがとても楽しいのです。

私はこの時、笑っていたのかもしれません。あるいは泣いていたのかもしれません。
異常な空間に身を置いたことで、感情をうまく調節できなくなっていたのでしょう。

散乱していたものを適当なところへ追いやり、痛む手をかばいながら立ち上がりました。
ひざに手を置いて中腰の体勢をとりながら目を細めたり大きく開けたりしてまわりを見ようとしたのですが、
映るのは暗闇ばかりです。私は大きく息を吐きだして事態を考察しました。

ここは人里はなれた廃病院の地下施設であり、光源となるものは何もありません。
持ちこんだ懐中電灯の明かりもなく、すべてスイッチが切られているのか先ほどの騒ぎで壊れてしまったのでしょう。

私は部屋のどのあたりにいるのか、他のみんなは――晃は無事なのかを確認しなければなりません。
私は皆に呼びかけました。

「みんな、大丈夫?」

冥暗の中に声が飲みこまれていきました。
返ってくる言葉はありません。

「無事なの? 答えて」

やはり返事はなく、きぃんという甲高い音が耳に木霊しているだけです。

どうしてだれも答えてくれないのでしょうか。
全員が私と同じように気絶しているのか、あるいは私だけが置き去りにされてしまったのか――
悲観的な考えや不安が重なり、気が気ではありません。

「ちょっと、どうしたの。なにか言ってよ!」
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posted by c-book at 17:57| 【小説】ひとりぼっち

【小説】ひとりぼっち 21

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「ですよね。やっぱり……」

私はこれが最後になるだろうと思い勇気をだして質問をしました。

「なぜ、そんなに一生懸命なのですか」
「えっ?」
「こうして私に時間を使うくらいなら他の人としゃべったほうがいいです。そのほうがあなたにとって有意義だと思います」
「……中谷さんって変な人ですよね」
「あ、あなたに言われたくありません」

思いがけないことを言われ、びっくりしました。

「やっと人間らしいリアクションがでた」
「ばかにしているんですか」
「いや、違いますって。有意義なんて言われたことなかったから」
「あなたこそおかしいです。私なんかとしゃべって……楽しいとか」
「なんとなくですよ。楽しいとか嬉しいとかそういう気持ちに確証なんてないでしょ。だから今は、なんとなく楽しいんです」
「やっぱり変です」
「そういうことに意味とか価値を求める人のほうが変ですよ」
「そ、それは……」

たしかに変かもしれません。少し前はそんなことを考えずに生きていけたのです。
ごく普通の人付き合いができたはずなのです。

でも、もう遅い――私は壊れてしまったのですから。

「あなたは、なにも知らないからそんなことが言えるのよ」

彼は一時ほど沈黙したあとで。
「そうかもしれない。でも、話してくれるならちゃんと聞きたいし、失礼なことを謝らせてもらいたいです」
「……なにが目的なの? なんで電話してきたのよ」

「友達になってくれたら話しますよ」嬉嬉とした声で彼は言いました。

やはり、ばかにされているのでしょうか。
私は半ばやけになりながら、好きにすればいいでしょと捨て台詞を吐いて電話を切りました。
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posted by c-book at 17:52| 【小説】ひとりぼっち