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2015年11月20日

【小説】ひとりぼっち 20

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ゆっくりと携帯電話を閉じ、畳の上に寝転がりました。
固くも柔らかくもないを材質を体に感じながら篠塚晃と名乗った彼のことを考えました。

彼はたぶん変な人です。私みたいな人間未満と話してなにが楽しいのでしょうか。
それに、飲み会でもないのになぜ電話をかけてきたのでしょう。

私は彼と会ったことがありませんし、名簿には顔写真なんて載っていません。
いや、写真があったとしても私みたいな根暗な女にはかけようとしないはずです。
宗教やマルチ商法の勧誘かとも考えました。

そうしていくつか解消してもしなくてもいいような他愛のない疑問が残りました。
明日電話がかかってきたとしても出たくなければ出なくていいのだと思いました。
彼に嫌われようが別に構わないのです。別に――

そうして悲観的な決断をした刹那でした。
手の中で電子音が鳴り響きました。

突然のことに、私はしっぽを踏まれた猫のように丸めていた背中をびくりと震わせました。
身をおこして画面を見ます。先ほどと同じ番号からです。

電話が切れてから10分ほどしか経っていません。
彼が事故にでもあい、身元を調べるために警察がかけてきているのでしょうか。
あるいは彼の恋人から浮気の疑いでもかけられたのかもしれません。

そんなほとんどありえないことが頭に浮かんでいくつかの疑問と重なりあい、興味となっていました。
そして、私は着信ボタンを押したのです。

「はい。中谷です」
「あっ、篠塚です」

重い沈黙がふたりの「 」を埋めました。一呼吸おいて彼が話しはじめます。

「すいません。二回も電話してしまって」
「なにか御用でしょうか」
「さっきの電話、中谷さんの気持ちも考えずに一方的にしゃべってしまっていたので……
あの、俺と電話するの嫌じゃないですか」

無言になりました。
嫌だと正直に答えられるのであれば、このような状態になっていないでしょう。

彼もそれを悟ったのか声色を落として悲しそうに答えます。
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posted by c-book at 17:48| 【小説】ひとりぼっち

【小説】ひとりぼっち 19

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心霊研究会というのは、私が大学で入っていたサークルです。
活動内容といってもホラー作品の批評や心霊スポット巡りなど、
ステレオタイプの活動しかしていませんでしたし、夏をすぎるとほとんど飲み会を行うだけの集まりでした。

私に電話してきたのは、おおかた新入生歓迎会の誘いだと思います。
去年もこの時期に催されていたはずです。
会員の電話番号などの情報はサークルの名簿に書いてあるので、そこから連絡をくれたのでしょう。

「あの、遠慮しておきます。私、もう――」

大学に行くつもりはないです、と言おうとしましたが、私の言葉をさえぎって彼がしゃべりはじめました。

「いえ、飲み会とかじゃなくて。少しお話しませんか」

なぜですかと突き放すように答えました。
なんのために電話をかけてきたのかは知りませんが、私は極力他人とは関わらずにいたかったのです。

「あっ、その、小谷さんと話したくて」
「名前」
「えっ?」
「小谷じゃなくて中谷です」

彼はすごく慌てた口調で「あっ! いや、それは、えっと、ダチとかは全部名前で呼んでて。
その、で、あのこういう敬語とかあんまりなれてなくて。苗字と名前とがごっちゃになったからで。
いや、なんでいいわけしてんだろ。あ、すいません。ごめんなさい。ほんと悪気なくて、あの、その……」

「別に気にしていません。ナカヤとか、そういう言いまちがいがよくありますから」
「は、はい」

無言になりました。
少し間をおいて、切っていいですかと彼に言いました。

「あの……また、かけていいですか」
「なんのためにでしょうか」
「いや、俺がかけたいだけというか。なんというか……声が聞けてよかったです」
「は、はあ」
「だから、また電話します。今ぐらいの時間だったら大丈夫ですか」

私は勢いに押されて「はい」と答えてしまい、
「それじゃあ失礼します」と彼は嬉しそうに言って電話は切れました。
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posted by c-book at 17:36| 【小説】ひとりぼっち

【小説】ひとりぼっち 18

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母からしばらく一緒に暮らしたいと言われたのですが、
甘えてしまうのが嫌だからと言って断りました。
そればかりか、なるべく早く彼らを実家に帰してしまいたかったのです。

次の日の朝、玄関で両親を見送った私は畳の上に体を丸めて寝そべっていました。
かぶと虫の幼虫みたいだと、たわいないことを考えました。
虫が嫌いなはずなのに、変なところで親近感を覚えてしまったのが、
どこかおかしくて小さな笑みをこぼしました。

もしかしたらこのおかしさは、哀れな私自身をさげすむ笑いだったのかもしれません。

春になり、窓から見える景色に淡いピンク色が混じりはじめたころ。
私は窓際で日向ぼっこをしながら携帯電話を手に持ち、意味のない開閉を繰り返していました。
折りたたんだ瞬間に鳴る、かちゃりという音が心地よかったのです。

両親から電話がかかってくるので電源は入れてありました。
それだけが、外界との繋がりでした。

稀に友人からメールが送られてくることもあり、
そこには決まって私を心配する言葉が書かれていました。

しかし、返信することはありませんでした。人との関わりがうっとおしかったからです。
こうして家からでられなくなったのは、発作をおこしたのは、すべて他人のせいなのでしょう。
心配しているかのような連絡をしてくるのは、対面を保つための行為であり、
私のことを親身になって思ってくれている人なんていません。

いるはずがないし、いても迷惑なだけです。

不意に電話が鳴りました。両親からだと思い、画面の表示も見ずに着信ボタンを押しました。

「はい、もしもし」
「あの、中谷小夜さんのケータイですか」

聞き覚えのない男の人の声でした。
電話を耳からはなして画面を確認すると、090からはじまる11桁の数字が表示されています。
もともと友達は少ないほうでしたし、男性で仲の良い人はいませんでした。

しかし、彼は私の名前を答えていたので間違い電話ではないようです。
私は上半身をおこして耳に神経を集中させました。

「だれですか」
「えっ、ごめん。ちょっと聞こえにくい」
「ど、どなたですか」
「……っ」

がさごそと受話器から音が漏れてきました。
大声をだしたつもりでしたが、彼には聞こえづらかったのでしょうか。
声を張り上げるなんて久しぶりのことでした。

「もしもし。受話音量上げたから大丈夫だと思います」
「は、はい」
「篠塚晃と言います。N大学の心霊研究会に入った一年です」

よく通る声で、彼はそう言いました。
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posted by c-book at 17:20| 【小説】ひとりぼっち